『化石ハンター』/小林快次著を読んで

以前、NHKの『あさイチ』というラジオ番組で恐竜学者である小林快次(よしつぐ)さんが出演されていました。そのインタビューがとても印象に残っていて、インタビューの言葉のかけらを見つけることができないかと、ある日、小林さんの本を読みました。

本は、PHP研究所から出版されている「YA心の友だちシリーズ」の1冊で、中心的な対象読者はたぶん子ども、中高生じゃないかと思います。だけど、私はどはまりして、このところの私を動かしてくれたのは、この本の言葉でした。そこで、今日は本を読んで感じたことを書いてみます。

 

『化石ハンター 恐竜少年じゃなかった僕はなぜ恐竜学者になったのか?』

まず小林さんは、北海道大学総合博物館教授をされています。

タイトルからすると、小林さんの人生の歩み、子供のころからどうやって今まで人生の歩みを進めてきたかという内容が書かれている気がするかもしれません。もちろんそれも書かれています。だけど「どうしてそういう人生になっていったのか」の部分が、もっと大切になっている本だと感じました。

Amazonの内容紹介文の一部はこんな風に書かれています。

世界トップクラスの恐竜学者である著者は言う。
「恐竜は特別、好きというわけじゃなかった」
化石採集に熱中した少年時代。
知識やウンチクとしての古生物には興味がなく、ただ太古から現存してきた化石の、時空を超えた存在感に想いを馳せるのが好きだったという。
「普通」を夢見ていた意外な少年時代、大学時代の挫折感と虚無感から始まった恐竜学者への道のりを語ります。

 

 

未来にワクワクするきっかけをあたえてくれた本

この本の一番よかったところは、未来にちょっとワクワクするきっかけをくれたことでした。本には、「これだったら私にもできそう」という要素がつまっています。「これだったら私もできそう、私も変われるものなら変わりたい」と素直に思い、一歩踏み出すことができた気がします。

私が救われた本書の考え方は、ものごとを引き算で考えないところでした。たとえば、なにか始めたけれど三日坊主になってしまった場合、「ああ、続かなかった」と後ろ向きにとらえやすいです。

けれど小林さんの場合、三日坊主はいいことだと思うと書かれています。「イヤになってやめたということは、それが自分に向いているかを試した結果、向いていないと確認できたということ」と書かれ、本のなかで、後の文章はこんな風に続いていきます。

 何でもいいから試してみる。試してみて「これもダメ、あれもダメ」でもいいのです。そうやっていくつものことを試しているうちに、自分に合うもの、やっていて楽しいと思えるものが見つかれば、自然にそれをやり続けていくでしょう。
何かを始める、つまり一歩を踏み出すことができるというのは、実はそれだけですごい能力です。その一歩を踏み出すことに尻込みして、何も始められず、どこにも向かえずにいる人が多いように思います。

「なにかを始める」ことをものごとの「始点」とし、生まれたものから着想を広げていく。始めたところの点を未来に向かってつなげていく。目の前の「今」から「未来へ」つなげていく小林さんの考え方に惹かれました。

本で一番印象に残っているのは、次の言葉です。

 転機はふとした瞬間に訪れました。横浜国大の図書館で、なにげなく手にした恐竜図鑑を開いたとき、そこにあった恐竜たちの姿を見て、思いがけず胸が高鳴るのを感じました。(中略)
とはいえ、身体に電流が走るように「好きだ!」とか「これだ!」と熱烈に思ったというわけではありません。中学生のとき、理科クラブの顧問の先生に「福井県ではアンモナイトや三葉虫の化石が出ます」といわれて「へえ、面白そう」と思った、あのときと同じくらいの軽い気持ちでした。
たとえば、「全号揃えるとこんな模型が完成します」という分冊百科のCMを見て、「面白そう、ちょっとやってみるか」と思ったりすることは、誰にでもあるのではないかと思います。あの感覚と一緒です。

この転機が訪れる前の小林さんの人生は、外から見れば順調と思われるものだけど、本人は「どこかに向けて一歩を踏み出したいのに、どこに足を出したらいいのかわからず同じ地点でずっと足踏みしている」状態だったと書いています。けれどこの図書館での経験をもとに、自ら恐竜学者としての一歩を踏み出し始めます。

私は、なにか始めたいことがあっても「うまくいくかわからないから…」と最初の一歩を踏み出さない人でした。けれど、「面白そう、ちょっとやってみるか」というような楽しみを大切にするやり方だったら、私にもできそうだと思い、小さな一歩を踏み出すことができたように思います。

 

「今を生きる」「ワクワクすることをする」というのは、自己啓発書やスピリチュアル系の書籍でよく見る言葉です。でもそういう本の言葉を読んで、「よし、わかった!」と案外行動につながることはすくなかった気がします。

私の場合、例えば経営者や著名人の方の本は読んですごいなあと思うけれど、そこからなにか次の行動につながることはあまりなかったです。その理由の一つは、たぶん著者やスポットの当たっている人が「仰ぎ見る」存在になりがちだったからだと思います。「はあすごいなあ」とは思うけれど、すべてはすごいなあ止まり…。

けれどこの本は違って、なにが違うのか考えたとき、まず読者に語りかける形で話が進んでいくことがあると思います。図書館の話のように身近に感じられる話も多く、それだったらわかるなあ、それだったらできるなあと思える話がつまっています。そして書かれていることが、小林さんの人生をもって証明していることというのも大きいです。思っていることの後にそう思う理由が続き、そのあとに自身の体験が続き、主張が人生を通じて証明されていきます。

自分と小林さんの話に関連を見出せ、小林さんの自身の人生の体験談から勇気をもらう。そして「じゃあやってみようかな」という流れにつながっていた気がします。

もともとは子ども、学生向けの本だとは思うのですが、大人の人にもうったえるものがたくさんある本だと感じました。

去年読んで、読んでよかったと思える本の1冊で、今もときどき思い出す1冊です。

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