『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』を読んで

若林さんの2作目「表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬」を読み終わりました。人生ではじめて紀行文を読んだのですが、おもしろかったです。キューバという国の雰囲気が伝わってきて、それが若林さんの視点でまとめられていて、笑えたりドキッとしたり、考えさせられたり…。キューバに行ってみたくなりました。今日は、感想を書いてみます。

 


あらすじは、Amazonから引用させてもらいます。

前作『社会人大学人見知り学部卒業見込』から約4年ぶり、新作の舞台はキューバ! 航空券予約サイトで見つけた、たった1席の空席。何者かに背中を押されたかのように2016年夏、ひとりキューバへと旅立った。慣れない葉巻をくわえ、芸人としてカストロの演説に想いを馳せる。キューバはよかった。そんな旅エッセイでは終わらない。若林節を堪能できる新作オール書き下ろし!

 

紀行文であり、経済や人間の話であり、そして家族の話である本

若林さんは、日本と違う社会のシステムに生きる人々の顔を見るため、それから後々わかるもうひとつの理由から、キューバに3泊5日の旅に出ます。

3日間の旅行中、1日目の6時間は日本語を話せるキューバ人ガイド・マルチネス氏と、1日目の夕方、2日目は現地在住の日本人マリコさんと観光し、残りの1日は若林さん単独で観光をされたそう。マリコさんと観光をするときは、マリコさんと2人で観光する以外に、マリコさんの友人のキューバ人や、そのまた知り合いのキューバ人とも一緒に観光されています。そのため、本にはガイドのマルチネス氏をはじめ、数人のキューバ人との交流が描かれています。

キューバ人との交流の描写が多かったのが、キューバの印象をカラフルで行ってみたい! と感じさせてくれるものにしていた気がします。若林さんは「海外からの観光客相手の場所ではなくて、キューバ人の生活に寄り添ったディープな場所が見たいのでお願いします」と出国前にマリコさんに頼んでいたそうで、キューバ人と一緒に闘鶏場に行ったりもしています。旅行会社のプランに沿った旅をしたのでは見えてこない「キューバ」が本には描かれていて、そこからキューバの雰囲気や、キューバ人の国民性を垣間見ることができて面白かったです。

 

そして、それらの体験が若林さんの視点で語られているのがいいです。経済のこと、キューバ人の人との関係の築き方、人々の表情などなど、それらの描写はリアルで、頭のなかで思い描きながら読み進めてしまいます。

私が本のなかで一番印象に残っているのは、若林さんが革命博物館で感じたことを書いた文章でした。

しかし、革命博物館でぼくの心をとらえたのは彼らの政治的なイデオロギーではなく彼らの”目”だった。バティスタ政権を打倒しようとする若者のような目をあまり見たことがなかった。
「明日死ぬとしたら、生き方が変わるのですか? あなたの今の生き方はどれくらい生きるつもりの生き方なんですか?」というゲバラの名言がある。
ぼくは革命博物館で涙を流さなかったし、今の生き方も考え方も変えるつもりはなかった。だけど、ぼくはきっと命を「延ばしている」人間の目をしていて、彼らは命を「使っている」目をしていた。
ゲバラやカストロの「命の使い方」を想像した。
日本で生きるぼくの命のイメージは「平均寿命まで、平均よりなるべく楽しく生きる」ことではないかと、そんなことを初めて考えた。

この文の流れの最後で、若林さんは「『命を使いたい』と思った」と書いています。

この文を読んで、ドキッとしました。というのも、この文を読んだときはちょうど身体の衰えを意識し、長く健康的に生きる方法を模索しているときでした…。でも同時に模索する過程で、「果たして健康的に長く生きられたとして、その時間をどう使うんだ?」と、問いかけているときでもありました。そんなときにこの文を読んで「ああ、私も命を使えていなくて、命を延ばそうとしている目をしているんだ」と気づかされました。本を読んでから、ふとした拍子に、もしくは鏡を見るときに、自分の今の目と命の使い方を考えてしまいます。

 

本を読んで感じたことを一言で表すのなら、「探索」でした。日本以外の国のシステムで生きている人はどんな顔をしているのだろう? その答えを探しにペルーに旅に出る若林さん(他の理由もあったのですが)。そして、ペルーでいろんなことを感じ、そこで生まれる自分の反応から、自分自身の考えや思いを知り、自分の思考の着地点をつけて日本に帰っていく…。

「キューバはよかった。そんな旅エッセイでは終わらない。若林節を堪能できる新作オール書き下ろし!」。この紹介文の通り、本には紀行文という枠だけにはおさまらず、現代経済とは、人間とは、家族とは…といろんな要素について考える若林さんの姿がありました。

本を読むとき、過去に資本主義にもやもやを感じ、同じように旅をした自分を思い出しながら読んでしまいました。その頃はこの本は出版されてなかったのですが、その頃にあって、読むことができてたらよかったなあとしみじみ思いました。なので、同じように社会、経済にもやもやを感じている人がいたら、是非読んでほしいです。

 

いやー、でも私は単純に紀行文として読んでいて楽しかったです。

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